転職エージェントが氷山の一角ビジネスと言われてしまうのはなぜか?
雇用の創出やジョブマッチングという観点で、民間の転職エージェント=人材紹介会社が担う役割は、10年前と比較すると比較的大きくなっているようにも思う。一方で、昔から業界の中では依然として「氷山の一角」を対象にしたビジネスと言われたりする事もある。なぜ民間の転職エージェントの転職支援サービスは氷山の一角ビジネスと言われる事があるのか?今回はその理由について触れていきたいと思います。
企業が割高の成果報酬を払ってでも採用したい人材を紹介する
民間の転職エージェントは中途採用を行う企業に対して、採用の候補となる人材を推薦、紹介する。そして企業が内定を出し、転職者側も入社を承諾した時点で、ビジネスが成り立つ仕組みとなっている。正確には転職者がその企業へ転職、入社した後に成果報酬を請求するのが一般的となっている(ヘッドハンティング会社などは除き、一般登録型の転職エージェントを例とした場合)。
そして、転職エージェントが企業に対して請求する成果報酬額は、転職者が入社して想定される初年度の年収(見込み)から算出されるのが一般的となっている。具体的には転職者の想定年収の30~35%程度となる事が多い。もし仮に想定年収700万円の転職者が入社したのであれば、およそ200万~250万範囲内程度の金額が転職エージェントに支払われる事になる。
もちろんその金額を支払う企業側も、あらかじめ成果報酬の料率に関しては同意の上で、転職エージェントに人材の紹介依頼をかけているのが普通となっている。しかしこういった企業も多くの場合、転職エージェントの成果報酬額を安いと考えている訳ではない。自社の採用に関連する予算の中でも、大きな金額と考える企業、人事担当者は当然多い。
それでも転職エージェントに人材の紹介を依頼する企業が一定数以上いるのはなぜか?それは企業が時に以下のような考えを持っているからでもある。
例① :自社により優秀な人材を集めたい、獲得したいから
例② :一般公募では集まりにくい職域の経験者を求めたいから(エンジニア等)
例③ :新規事業の立ち上げやプロジェクトの責任者となりえる人材を特別に求めたいから
例④ :自社の既存人材のリプレース(入れ替え)を密かに行いたい時だから
例⑤ :応募多数などで発生する、選考の手間等を省きたいから(効率をお金で買う)
成果報酬額、その料率に同意できない企業の求人は扱えない
転職エージェントは常に様々な業界、職種の求人情報を新規開拓している。電話やメールなどで企業の中途採用担当者に対して営業活動を行い、採用枠があれば成果報酬体系に対する説明を行い、同意を得た上でその企業の中途採用の求人情報を扱うようになる。もちろんプッシュ型の営業開拓だけではなく、企業から人材を紹介してほしいと直接問い合わせが入るケースもある。大手の転職エージェントであれば、こういった問い合わせも一定件数あるのが普通だろう。
転職エージェントは常に、世の中にある様々な求人を熱心に集めている。これは様々な転職者の要望、希望に対応するためでもある。そして多くの求人量と多くの転職者が集まるようになると、マッチング効率が向上し、ビジネスの成果も出しやすくなってくる。転職支援人数の実績も伸ばせるし、ビジネス上の売上高も大きくなる。
しかし転職エージェントのビジネスには昔から悩ましい問題がある。それは世の中の大企業から中堅、中小企業に至るまで、できるだけ広くの転職者の要望に応え、求人情報を幅広く網羅していくのが(現実的に)難しいという問題だ。平たく言うと、成果報酬額が支払えない企業の求人情報は扱えない、扱わないということ。
転職業界の中にどっぷりと浸かり、長く働いている人たちの中には、「(転職エージェントが提示する)成果報酬が支払えない企業と付きあわないのは仕方ない。それが転職エージェントだ」と割り切った考えを持つ人もいるが、転職者の視点からすると(現在置かれている)自分に合う企業、求人情報を少しでも多く紹介してほしいという想いもあったりする。「転職エージェントに登録したのに、自分は求人を紹介してもらえなかった!」という声が出てくる事があるのは、こういったビジネスの仕組み上の影響も少なからずあるためだと思われる。
転職者にもっと裾野の広いサービスを。という熱い想いと現実の葛藤も
転職エージェントの中には、自分が担当する一人一人の転職者のために、熱心にサポートを行うキャリアコンサルタントも数多くいる。しかし成果報酬額が支払えない企業の求人情報は自社では直接扱えない。本当はこの転職者の人にこんな企業の求人情報を紹介できたら・・・。そう考えるキャリアコンサルタントもいたりする。そんな時はどうするか?自社で直接は紹介できないけれど、こういった企業が中途採用を行っている、あなたにも可能性があるかもしれない。自社サービスの範疇を超えて、「転職者に有益であろう情報」をそっと伝える。それが仮に売上にはつながらなくても、最終的には転職者本人のために。
民間の転職エージェントの経営は、企業からの成果報酬の上に成り立っている。その成果報酬を支払える企業の数は、国内全体の企業数の氷山の一角ではあるけれど。明日からすぐにハローワークのように、全国津々浦々の求人情報、地域の中小企業の求人情報までを扱うような事はできないだろうけれど、自社の経営体力を上げていきながら、徐々に転職者サポート、支援の幅を広げていきたい。そんな希望も持ちながら、今日も朝から夜遅くまで、今のビジネスモデル、仕組みで現実的に支援する事が可能な企業、転職者のサポートに励んでいる。
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